幻の郷土誌「曙の小野津」の写しを喜界町に寄贈

 これまで文献としては知られているがその存在は確認されてなく、郷土研究家から“幻の郷土誌”と呼ばれていた三井喜禎氏著の集落誌「曙の小野津」が大阪府在住の喜界島出身者によって保存されていることが分かり、十月三十一日、同島在住の親せきを通してコピーが同町図書館に寄贈された。同集落誌はガリ刷りで、内容から一九三二年八月以降に出版されたと見られる。同図書館の得本拓司書は「貴重な内容も多くある。郷土資料として活用させたい」と話している。
 得本司書や関係者によると、三井さんは、一九二六年から三三年まで小野津小学校に在職。同氏の著書「喜界島古今物語」には「曙の―」は戦前に出版したという記録がある。「喜界町誌」でも出版されたことに触れ、編さん中に委員らが現物を探し回ったが見つからなかった。
 しかし、昨年四月、喜界町郷土研究会会員で小野津の吉塚廣次さん(85)が、親せきで大阪に住む著者の二男の嫁の三井徳子さん宅に保管されていることを知った。徳子さんは今年十月下旬、孫を連れて島を訪れ、吉塚さんに原本を渡した。吉塚さんは「子や孫にとって大事な宝だ」として、喜界町図書館でコピー、製本して原本は徳子さんに返した。
 得本さんによると、全二百三十七ページで表紙は布張りのカラー。三二年上半期ごろまでの統計が載っていることから三二年八月以降に出版されたとみている。内容は小野津集落だけでなく、当時の喜界島の社会、世相全般についても記載。出郷者の送金状況や北米・満州への出郷者状況、小野津集落の総人口、クレオパトラアイランドと呼ばれたいきさつ、小野津集落に残る五つ甕(かめ)の伝説などにも触れているという。
 著者の三井さんは吉塚さんが小学校三年のときの担任。復帰運動では密航して上京したという。「『曙の―』は『喜界町誌』にも載っていない内容もある。資料を見ると昔を思い出す」と話した。
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